ファンキージャズの立役者の一人として知られているホレス・シルバー(1928~2014)。アート・ブレイキーがクリフォード・ブラウンをメンバーとしたクインテットの「バードランドの夜」にメンバーとして加わり、音楽監督的な役割を果たしました。そして、ブレイキーとともにジャズ・メッセンジャーズ(JM)を立ち上げています。
その後も、マイルスの「ウォーキン」などのモダンジャズの初期名盤にも参加するなど、モダンジャズを作り上げた重要人物の一人です。JMから独立し、自らのクインテットを率いて以降は、サイドマンとしての活動もほとんどなくなり、独自のシルバー・ミュージックを生涯にわたり追求し続けました。ジャズロックやフリー、フュージョンなどの流行に合わせ、精神世界を追究するなどシルバー・ミュージックも微妙な変遷を遂げますが、最期はオーソドックスなジャズに戻って、85歳で生涯を終えています。
マイルスの名盤にも参加=ウォーキン
シルバーの音楽は、アフリカ系ポルトガル人の父と、アフリカ系アイルランド人の母という、珍しい血統ゆえか、独自のカラーを持っています。キャノンボール・アダレーやアート・ブレイキーらのファンキージャズとは一線を画した雰囲気があります。また、モダンジャズの重要人物ではありますが、その代表曲の多くが4ビートではなく8ビートであるなど、モダンジャズの王道路線とは微妙に違っているところも、個性ではありますが、なかなか理解を得られなかった点ではないかと思います。
ホレス・シルバーは、ビックネームのはずだが、日本で(もしかしたら世界でも?)あまり聞かれていないのではないか?という疑問から、今回、全部聞きの上、再評価されることを願いつつ、新ジ談の土俵に上げてみた。結果は、生涯にわたり愛聴に値する素晴らしい盤があることが分かった反面、結果的に5選に選ばれたのは、クインテットの黄金時代ともいえる1950年代末から60年代中頃までの盤であった。
代表作=Blowin’ The Blues Away
タイトル曲が名曲=「Song For My Father]
名門ブルーノートに30年近く在籍していただけでもすごいが、その後半は、基本線は変わらないものの、見かけは凝りに凝ったシルバー・ミュージックで遂にBNからも見放され、自己レーベル、シルヴェトを立ち上げ5枚の盤を出したが、いずれも今現在CD化もされていないマニアックな内容だ。90年代に入り、コロンビアなどメジャーレーベルから再度ハードバップ的なオーソドックな盤を出し、これらはまずまず売れたと思われる。
今回選ばれたのは、やはり2トップともいえる「ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ」と「ソング・フォー・マイ・ファーザー」で、3人から強力な支持があった。3位以下は、もしかしたら世評とは微妙に異なるのかもしれないが、やはり黄金のクインテットの3枚「ドゥーイング・ザ・シング」、「ザ・ケープ・ヴァーディーン・ブルース」と「トーキョー・ブルース」だ。惜しくも選外となった中には、しげどん推薦の初期に近い「スタイリング・オブ・シルバー」、ショーン氏推薦の黄金期の「フィンガー・ポッピン」、そして私handが入選を狙ったラスト作「ジャズ・ハズ・ア・センス・オブ・ユーモア」がある。(hand)
スタイリング オブ シルバー
フィンガーポッピン
ジャズ・ハズ・ア・センス・オブ・ユーモア
・新宿ジャズ談義の会 :ホレス・シルバー CDレビュー 目次
1959.8.29,30 & 9.13
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★★
しげどん ★★★★★
ショーン ★★★★★
Horace Silver(p), Blue Mitchell(tp), Junior Cook(ts), Gene Taylor(b), Louis Hayes(ds)
多分、これがシルバーで最も知られた盤なのだろう。私自身、これまであまり聞いてこなかったが、改めて聞くと勢いのある素晴らしい盤だ。②セントヴィタスダンスはかっこいい曲。シルバー曲をいいと思ったのは、オパスデブルース以来だ。後年ディディ・ブリッジウォーターが歌いたくなったのも当然だと思う。バラードの④ピースも素晴らしく、物悲しさに尺度があれば確実に上位にランキングされるはずだ。シルバーは物悲しさを表現するのは決してうまい人ではないと思うが、この曲では成功している。⑤シスターセディもハードバップらしいかっこよさを持った名曲だ。(hand)
ミッチェル、クックのフロントラインによる更なる傑作盤。冒頭からノリのいいハードバップだ。二曲目のSt.Vitus Danceはピアノ・トリオ演奏だがヒット要因もありそうな曲。アルバムに挿入しているピアノトリオ演奏は、Further・・・の再演Melancholy Moodのような陰りのある静かな曲が多く、このようなメロディアスな曲は少ない。そしてヒット曲Sister Sadieは、典型的なファンキー!そのものの曲で、言うことなき名演だ。(しげどん)
カッコ良いblowin' the blues awayから始まるこのアルバムは、ブルー・ミッチェルのトランペットが生き生きと曲にスパイスを与えており、シルバーも軽やかな鍵盤捌きの応酬で終始心地良く聴くことができる。ショーン的にはpeaceの静かな調べは、もう少しウェットに弾いてほしいかな?と思ったりしたが、ともあれ素敵なアルバムであることは間違いない。(ショーン)
1963.10.31:③,⑥-⑩
(⑥⑧はトリオ)
1964.1.28:①②④⑤
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★★
しげどん ★★★★☆
ショーン ★★★★★
Horace Silver(p),
③⑦⑨⑩:Blue Mitchell(tp), Junior Cook(ts), Gene Taylor(b), Roy Brooks(ds)
⑥⑧:Gene Taylor(b), Roy Brooks(ds)
①②④⑤:Carmell Jones(tp), Joe Henderson(ts), Teddy Smith(b), Roger Humphries(ds)
印象深いメロディラインのアルバムタイトル曲song for my fatherから始まるシルバーの傑作アルバム。ジョー・ヘンダーソンの憂いを帯びたテナーが効いている。息もつかせぬほど疾走するThe Natives Are Restless Tonightの躍動感は、このテナーの効果だ。またCalcutta Cutieの情緒溢れるシルバーのマイナーなピアノは、どこかの遠い国の趣きを聴く者に与える。素敵だ。ロイ・ブルックスのドラムの演出が心憎い。絶対的名盤だ。(ショーン)
ついにミッチェル=クックのフロントが終わりとなる。しかも、アナログだと全6曲のうち③⑥の2曲のみで、他4曲①②④⑤は新メンバーだ。カーメル・ジョーンズ、ジョーヘンという新しい風を吹き込むメンバーにフロントが変わり、リズム隊もテディ・スミスとロジャー・ハンフリーに変わっている。前作「シルバーズ・セレナーデ」が煮詰まった感があったので、メンバー総入れ替えは正解で、この盤のヒットにより第二期快進撃が始まる。タイトル曲①ソングフォーマイファーザーもそうだが、シルバーという人は8ビート曲にヒット曲が多いと思う。⑤キッカーはジョーヘンの曲。シルバーがメンバーの曲を採用するのは珍しく、期待の現れだと思う。ジョーヘンはケニー・ドーハムのもとで売り出し、シルバーに移籍し脂が乗っているところで、このバンドに新主流派とジャズロックの両方の風を吹き込んでいる。CD追加の4曲は旧メンバーでいずれもいい曲だ。(hand)
ホレス・シルバーの名曲は多いが、曲単位で選ぶならこのタイトル曲が一番のヒット名曲だと思う。ブルーノートの版権が東芝からキングに移った時に1800円の廉価盤がでた時初めて買ったシルバーがこれで、でもこのアルバムはタイトルナンバーの雰囲気とは違う曲が続くややこしいアルバムなのでじばらくA面ばかり聴いていた。今聴き直すとメンバーが代わった重要な時期だったので、変化はあると思う。でもソロイストが変わってもシルバー・クインテットのテイストは変わっていない。そこがメッセンジャーズとの違いで、ジョー・ヘンが来ようが、シルバーはシルバーなのだ。(しげどん)
1961.5.19 & 20
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん ★★★★☆
ショーン ★★★★☆
Horace Silver(p), Blue Mitchell(tp), Junior Cook(ts), Gene Taylor(b), Roy Brooks(ds)
ホレスの元気のいい若々しいアナウンスから始まる力がみなぎる一枚。ブルーノートはスタジオ盤とライブ盤で同じ曲がダブることを嫌ったので、ライブだけれども新オリジナル中心の聴きごたえのある一枚だ。このあたりの編集方針はリバーサイド盤などとかなり違うのが興味深い。モンクには合っていないがシルバーにはぴったりの方針ではないかと思う。ノリノリのハードバップのエネルギーを感じる素晴らしいライブ盤だ。(しげどん)
「ホレス・スコープ」と同メンバーでのヴィレッジ・ゲートでのライブ。①フィルシー・マクナスティからめちゃめちゃカッコいい。シルバーの黄金時代が続いているのがはっきりとわかる。今回、シルバーを初めて編年的に聞いて見えて(聞こえて)きたのは、メンバーの変遷とも関係あるのかもしれないが、シルバーのピアノスタイルも微妙に変化しているだけでなく、作る曲も雰囲気が変わってきていると思う。(hand)
シルバーのリラックスした楽しい雰囲気を味わうことのできる貴重なライブ盤。管楽器の二人をバックで支えるシルバーのピアノはリズムを刻みつつ、とてもメロディアスであり、まるで管楽器とハモっているような印象がある。勿論ソロの迫力も相当なものだ。リーダー自身がノリノリであることがしっかりと伝わってくるアルバムだ。(ショーン)
1965.10.1 & 22
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★★
しげどん ★★★★☆
ショーン ★★★★☆
Horace Silver(p), Woody Shaw(tp), Joe Henderson(ts), Bob Cranshaw(b), Roger Humphries(ds), J. J. Johnson(tb:④–⑥)
ウディ・ショー、ジョーヘンがフロントの唯一のスタジオ録音。曲も演奏も素晴らしく、このメンバーでの最高作だと思う。ジョーヘンは、この盤を最後に独立する。なぜか2曲にゲスト参加のJ.J.ジョンソンもいい仕事をしている。J.J.とシルバーとの共演は、マイルスの「ウォーキン」やロリンズの「Vol.2」以来ではないかと思う。ベースがこの盤のみのボブ・クランショウになっている。クランショウは、3年後に再度エレベで参加する。(hand)
サンバ調のノリの良い曲からのスタート、自身の出身ポルトガルの感性も感じられるユニークな作品。私のようなJAZZ初心者は、このようなJAZZの領域を超えたワールドワイドな音楽に魅力を感じる。聴き込む程に、世界を旅しているかの様な新鮮味を覚える。ロジャー・ハンフリーズのメロディアスなドラミング感性が素晴らしい。(ショーン)
ホレスの父親の出身地である旧ポルトガル領カーボ・ベルデを題材にした明るいタイトルナンバーからはじまる。そう聴くと郷愁も感じる西アフリカとラテンの味わいがある。ウディ・ショー,ジョー・ヘンダーソンのフロントラインも強力だが、B面のJJ ジョンソンがなかなか良くて、出来ればこの3管でアルバム一枚にしていれば、もっとこの盤の印象度が強まったのではと思う。(しげどん)
1962.7.13 & 14
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★
しげどん ★★★★☆
ショーン ★★★★☆
Horace Silver(p), Blue Mitchell(tp), Junior Cook(ts), Gene Taylor(b), Joe Harris(ds)
着物姿の美女に挟まれてご機嫌なシルバー。来日して日本を好きになってくれたシルバーがニューヨークで撮影したいい感じのジャケ写真で、私もアナログ盤を部屋に飾っていた。曲のタイトルも「So Match Sake]、「Ah!So」なんて日本の思い出フレーズをコミカルに題名にしているが、曲調は特に日本的ではなくいつものシルバーテイストだ。Cherry Blossumのようなピアノトリオ演奏はメランコリックな感じでこれもいつものシルバーテイストなので、アルバム全体でも、シルバーらしさが充実しているすばらしい一枚。(しげどん)
日本をテーマにした、シルバーの意欲作。和風なテイストが題名だけでなくメロディにも散りばめられておりユニークかつ新鮮だ。ファンキージャズにラテンの香りやサンバのリズムを積極的に取り入れた彼らしいジャパニズムの表現を楽しめるアルバムだ。(ショーン)
今回、発見したことの一つに、ジュニア・クックのテナーが意外といいということがある。ブルー・ミッチェルは「ブルース・ムーズ」という名盤があるので以前から聞いていたが、クックはきちんと聞いたことがなかった。やや古いスタイルの人かと思っていたが、グリフィンとモブレーの中間くらいのモダンなテナーだ。この盤は、来日公演を経たシルバーが日本の印象を元に作った曲でできている。前3作が名盤揃いなのでやや劣る気がするが、③トーキョー・ブルースを始めとしてなかなかいい盤ではある。初期のシルバーと比較するとソロが徐々にメロディアスになってきていると思う。ドラムはロイ・ブルックスが入院したらしくジョー・ハリスが叩いている。(hand)
・新宿ジャズ談義の会 :ホレス・シルバー CDレビュー 目次