5年間の沈黙後の再稼働の年は70年です。ここからが後期ということができると思います。前期末に登場したロニー・ヒリヤー、チャールズ・マクファーソンに加え、ハミエット・ブルーイットなども加わります。そして73年にはジョージ・アダムス=ドン・プーレンがミンガスの下で成立し、後期の特色となっていきます。ドラムが、長年連れ添ったダニー・リッチモンドからロイ・ブルックスに変わったのもこの時期です。
・新宿ジャズ談義の会 :チャールズ・ミンガス CDレビュー 目次
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
1970.10.28
DIW
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
再始動ヨーロッパ・ツアーのパリ国立劇場でのライブ。ドルフィー入りのアムステルダム に続き、70.10.28の仏Ulysse Musiqueの海賊LPとCDを日本のDIWがジャケを変えてLPとCD化したもの。ただし、DIWのCDは、仏CDにはないDisc 2①フォーバスと②シーズ・ファニー・ザット・ウェイを追加して2枚組にしていて素晴らしい。音も良く、この時期のメンバーによるフォーバスが聞けるのが嬉しいだけでなく、ラスト③エリントン・メドレーも楽しめる。(hand)
1970.10.31
America
おすすめ度
hand ★★★★
しげどん ★★★☆
ショーン ★★★★
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
フランスの’アメリカ’というややこしい名前のマイナーレーベルの2枚のLP「ブルー・バード」と「直立猿人」をDisc 1にまとめ、リハーサルテイクをDisc 2に加えた完全版CD。スタジオ録音で、内容もいい。マクファーソンが3管のメインとして活躍する。Disc 2 は資料編と考えたほうがいいと思う。超マイナーレーベルなので海賊ライブと誤解して解説している人もいるがスタジオ盤だ。①想い出のサンフランシスコ。この曲をミンガスが取り上げること自体珍しいが、ベースをメインにフィーチャーした珍しい演奏だ。②リインカーネーション、はダニー・リッチモンドがいつもライブに比べて前ノリの元気なドラムで、ポップな感じがする。⑥直立猿人は、演奏が意外と少なく、10分超の元盤「直立猿人」の演奏、16分超のこの盤の演奏。そして5枚組「ジャズ・イン・デトロイト」での25分超のライブ演奏の3種類しか私は持っていない。ただし、この盤のDisc 2 資料編には、インコンプリートな直立猿人が長短さまざまな6テイクが入っている。(hand)
作曲家、編曲家としてのミンガスではなく、バンドリーダーとしての側面が強くなっている印象の作品。ミンガスのベースももちろん目立っているが、評価が難しい。CD二枚目の不完全テイクも全部集めた一枚はマニアックで面白いが、何度も聴くような音源ではない。(しげどん)
優しく軽やかなセッション、スタンダーも交えたごく普通に素晴らしい演奏なのだが、ミンガスにはもっと荒々しく自由な発想を期待してしまうところがあり、正直少し物足りなさを感じてしまった。そのため評価は厳し目になったかもしれない。(ショーン)
1970.11.1
Cross Road
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
「イン・パリ〜コンプリート・アメリカ・セッション」の翌日のオランダ録音。ニューポート・イン・ヨーロッパという冠イベントライブだ。海賊音質を想像したが、聞いてみると非常に音がいい。マクファーソンの活躍が目立つが、ボビー・ジョーンズ、エディ・プレストンもいいと思う。オマケ曲⑥道化師、はミンガスの演奏ではなく、師と仰ぐエリントンがミンガスの曲をビッグバンドで演奏したもので貴重。ミンガス自身、最初のスタジオ録音以外、ライブでは演奏していない曲だと思う。前年69年の録音。この演奏をミンガス自身が聞いたかは不明だが、もし知っていれば、感涙物だろう。ただ、ナレーションがメインの曲なので、ビッグバンド演奏自体は楽しめなかった。(hand)
1970.11.5
Beppo 508
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
Charles Mingus(b),
Eddie Preston(tp), Bobby Jones(ts,cl),
鈴木重男(as), 佐藤允彦(p),
宮間利之 and His New Herd Orchestra:
宮間利之(cond), 羽鳥幸次, 村田文治, 藤崎邦夫, 佐野健一(tp), 片岡輝彦, 上高政通,戸倉誠一, 青木武(tb), 高見弘, 中山進治(as), 市原宏祐, 前田章二(ts), 砂原俊三(bs), 山木幸三郎(g), 今城嘉信(p), 山本五郎(b), 豊住芳三郎(ds)
来日したミンガスが、本来のメンバーを一部日本人メンバーと交替した上で、宮間俊之とニューハードと共演した珍しい盤。①ザ・マン・フー・ネバー・スリープス、はエディ・プレストンのトランペットが美しいバラード。ボビー・ジョーンズのクラのソロもとてもいい。ミンガスでクラは珍しいので、日本人かと思ったが残念ながら違った。日本人では佐藤允彦と鈴木重男が活躍する。「アドベンチャー・イン・サウンド」という帯だけの日本タイトルは「アンド・オーケストラ」がつまらないタイトルなので日本タイトルを付けたくなるのはわかるが、将来の混乱の元だと思う。特にカタカタ英語の別タイトルはいただけない。(hand)
1971.9.23 - 11.18
Columbia
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Joe Wilder, Lonnie Hillyer, Snooky Young(tp), Julius Watkins(French horn), Charles McPherson(as), Bobby Jones, James Moody(ts), Roland Hanna(p), Dannie Richmond(ds)
メジャー、コロンビアから12年振りの盤でスタジオ録音。大編成オーケストラのジャズ、現代音楽のようなクラシックのような雰囲気もある。でもやはり紛れもないジャズで、現代音楽のような親しみにくさはない。ボビー・ジョーンズのテナーがマイケル・ブレッカーを感じるところが私の好みとは違うが、マイケルのジャズには後期ホレス・シルバーでかなり慣れたので許容範囲ではある。(hand)
1971.10.11
Hi Hat
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Joe Gardner(tp), Hamiet Bluiett(bs), John Foster(p), Dannie Richmond(ds)
「レット・マイ・チルドレン」とほぼ同時期のライブの放送用音源。②フォーバス、ではハミエット・ブルーイットのバリトンがドルフィーのバスクラ役なのが新鮮だ。ブルーイットが3管のメインとも言えるので、バリ好き向きの盤とも言える。③ブルース・フォー・ア・ソー、ではロイ・ブルックスのミュージカルソーも聞かれる(音色は私好みではない。)。全体に演奏は悪くないが、音があまり良くない。ハイハットは、近年、サウンドボード的な盤を正規発売しているレーベルなので音も期待したがそれほど良くなかった。(hand)
Charles Mingus(b,arr),
Jon Faddis, Lonnie Hillyer, Lloyd Michaels, Eddie Preston(tp),
Richard Berg, Sharon Moe(French horn), Eddie Bert(b-tb),
Robert Stewart(tuba), Howard Johnson(tuba, bass sax),
Lee Konitz, Charles McPherson, Rich Perry(as),
Gene Ammons, George Dorsey(ts), Bobby Jones(ts,cl),
Gerry Mulligan(bs), James Moody(fl),
John Foster, Randy Weston(p), Milt Hinton(b), Joe Chambers(ds),
Dizzy Gillespie, Honi Gordon(vo), Sy Johnson(arr), Teo Macero(arr,cond)
「レット・マイ・チルドレン」から大編成録音が増えて晩年まで続くこととなる。この盤は、コロンビアでのお金のかかった超大編成での2枚組ライブ。場所はニューヨーク、フィルハーモニックホールで、テオ・マセロの指揮だ。ディジー、コニッツ、アモンズ、マリガンなどものすごいメンバーが入っている。豪華なメンバーでのミンガス・ミュージックだが、これが好きかと聞かれると、嫌いではない、くらいに私個人はとどまってしまう。(hand)
Charles Mingus(b),
Jon Faddis(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts,cl), John Foster(p,vo), Roy Brooks(ds,musical saw),
Dexter Gordon(ts:Disc2④)
1972年8月のオランダのライブ1枚半にデンマークのライブ1曲を追加した2枚組CD。オランダ録音は、次の「ロニー・スコッツ」と同じメンバーのセクステット録音。3曲目のフォーバスが出てくるまでは、あまりミンガス臭を感じなかった。デンマーク録音は、デクスター・ゴードンが1曲ゲスト参加している。デックスがホーム同然としていたモンマルトルでの録音なので、デックスがMCでミンガスを紹介している。ミンガス曲だがやりやすいブルース曲のジェリーロールを24分半やっている。フロントはデックスとマクファーソン。ロイ・ブルックスのミュージカル・ソーも聞ける。(hand)
1972.8.14 & 15
Resonance
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん ★★★☆
ショーン ★★★★★
Charles Mingus(b),
Jon Faddis(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts,cl), John Foster(p,vo), Roy Brooks(ds,musical saw)
2022年発掘の72年8月14,15日のロンドン、ロニースコッツでの3枚組ライブ盤。ロンドンでは2週間にわたり公演したようだ。いつもと少しメンバーが違い、ジョン・ファディス、ロイ・ブルックスという珍しいメンバーが入っている。他はマクファーソン、ジョーンズとフォスターというこの時期のメンバー。 Disc 1は、ミンガス臭がやや弱く、普通のモダンジャズに近い感じがする。かと思うとDisc 2 はいつも以上にフリーな感じで、次のジョージ・アダムス=ドン・プーレン時代につながる感じがある。レーベルはレゾナンスなので音はいい。Disc 3が選曲のせいかいつものミンガスに近い感じがする。ファディスのハイノートはこれまでのミンガスサウンドにない新鮮な響きがある。ブルックスのノコギリをバイオリンの弓で弾くミュージカルソーという楽器の幽霊音のような不思議音が聞かれる。また、フォスターがピアノでなくボーカルも素晴らしいことに驚く(聖者の行進)。ミンガスの長めのベースソロも聞かれる。 CD3枚の長尺だが、勢いがあり飽きないライブだ。(hand)
どんどん一曲が長くなり、メンバーのソロの時間が長いので、途中で何の曲かわからなくなる。悪いメンバーではないのだが、コルトレーンやドルフィを聴くようなような気持ちでは聴けないのだ。これは好みの問題だが、私には冗長に感じてしまう。ミンガスを味わうのはやはり曲が重要かと思うので。(しげどん)
斬新なドラミングをはじめ、各自が自由奔放に演奏しているような雰囲気だが、何故か統一感があり、新しさと美しさを感じる。特に3管のハーモニーが力に満ち溢れ、迫るものがある。ミンガスのベースの音も締まりがあり、ピッチ(速さ)をコントロールしている。高音のトランペットも凄い、歌までアリの熱いライブの名演奏だ。(ショーン)
1972.8.22
Esoldun
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Charles McPherson(as), John Foster(p,vo), Roy Brooks(ds,musical saw)
圧巻は冒頭の26分半分超の①エリントン・メドレーだ。この日はジョン・ファディスとボビー・ジョーンズが参加せずにマクファーソンのワンホーン・カルテットになっている。一週間前の「ロニー・スコッツ」を最後に退団してしまったと思われる。そのマクファーソンが好調なので、なかなかいい盤になっていると思う。ミンガスのソロも長めに入っている。(hand)
1972.11.5
Get Back
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Joe Gardner(tp), Hamiet Bluiett(bs,cl), John Foster(p), Roy Brooks(ds)
タイトルどおりミンガス5にエリントン・バンドのハイノートで知られるキャット・アンダーソンが客演した海賊盤。72年のヨーロッパ・ツアーのドイツ、ベルリンでの最終記録のようだ。曲は16分の①セリア、と18分のエリントン・ナンバー②パーディド、の2曲でアンダーソンは②のみ。クインテットはジョー・ガードナーとのツイン・トランペットになっている。この時期のバンド・カラーはフリーになる直前のハミエット・ブルーイットのバリによって染まっていて、フリー直前感が漂っている。①の大団円は、フリーそのものだ。キャット・アンダーソンの溶け込み具合が心配だったが、聞いてみると意外にもいい感じだった。ホーキンス、エルドリッジ、ピーウィー・ラッセルなどスイング期からのミュージシャンがこの時代に適応している例の一つになっていると思う。当日は、ペギーズも演奏されたがここにはなく、海賊的DVD「Stockholm '64 & Berlin '72」には収録されている。(hand)
Charles Mingus(b),
Joe Gardne(tp), John Stubblefield(ts), Don Pullen(p), Roy Brooks(ds,musical saw)
2018年発掘の73年2月13日の長大な5枚組ライブ盤。盤タイトルも長大でなかなか覚えられないが、聞いてみると素晴らしい内容。特に25分超の直立猿人、は圧巻だと思う。ドラムのロイ・ブルックスとピアノのドン・プーレンが「ロニースコッツ」の発掘盤と同様にミンガス・バンドのカラーの塗り替えに貢献しているように感じる。ブルックスのノコギリをバイオリンの弓で弾くミュージカルソーという楽器は「スコッツ」でも聞かれたが、幽霊音のような不思議感を出している。「スコッツ」もこの盤も発掘盤で、この2枚でブルックスが72年から73年にかけて在籍し、活躍したことが知られたので、発掘は大きな意義があった。ブルックスの奥さんが保管していたFM放送用の音源らしい。(hand)
1973.10.29-31
Atlantic
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Ronald Hampton(tp), George Adams(ts,fl), Don Pullen(p), Dannie Richmond(ds), Doug Hammond, Honi Gordon(vo)
ジョージ・アダムスの加入で、アダムス=プーレンがミンガスの下で成立した盤。ドラムにはリッチモンドが戻っている。①カノンが静かな曲なので、アダムス=プーレンの個性が発揮しきれていない。やはり曲順は重要だと思う。各曲はなかなか良い出来ではあると思うし、熱い演奏でもあるが、ミンガス臭はやや弱めだ。改めてミンガス臭とは何かと考えてみると、ミンガスの作曲、エリントン曲などミンガス向きの曲をミンガスが編曲、そしてミンガス自身の演奏、時に掛け声なども入ることでより臭気は増す、などではないか。これらの物理的な量が減ってくると、そのあとに頼るのは精神性だけとなる。晩年の盤がまさにそれで、この時期からそこに向かっていくことになる。そんなことを考えさせるのがこの盤ということだ。(hand)
・新宿ジャズ談義の会 :チャールズ・ミンガス CDレビュー 目次