一度、バンドを離れたドルフィーが再加入し、いわゆるミンガス=ドルフィー時代が、この64年3~4月の2か月で、米国内、そして欧州へとツアーはつながっていきます。海賊盤も含め、短期間で数多くの盤が出されてきました。このツアー後に退団したドルフィーは、直後にヨーロッパで客死してしまいます。それだけ完全燃焼したツアーだったということができると思います。
・新宿ジャズ談義の会 :チャールズ・ミンガス CDレビュー 目次
1964.3.18
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
2007年にブルーノートから発掘された米コーネル大でのミンガスのライブCD2枚組。ミンガスの奥さんスーが持っていたテープらしい。他のライブに比べて、録音バランスのせいかフロントよりもリズム隊、特にジャッキー・バイアードのピアノとミンガスのベースが目立っているように感じた。タイトルには「ウィズ・ドルフィー」となっているが、ドルフィーはジョニー・コールズ、クリフォード・ジョーダンとの3管の1メンバーとして参加しているだけなので、単に売れ行き狙いのタイトルだと思う。ただ、3人の中ではドルフィーの突出感はある。ドルフィーは、再度ミンガスのメンバーとして、この盤と「タウンホール」を経た後、欧州楽旅に出て、そのまま終焉を迎えることとなる。パリでコールズが病気で退団しジョーダンとの2管となる。ジョーダンはツアー後半に向けて上り調子となり、活躍が目立つようになる。その点ではこの盤がドルフィーの目立ち度が高いのだと思う。BN盤で音は悪くはないのだが、BN録音ではないのでBN的な迫力音質ではない。ただ大音量で聞けば、迫力ある内容だとわかる。このツアーは海賊盤も含めると非常に多くの録音が残されており、ミンガス盤約100枚の1割以上を占めているすごいツアーだったのだ。(hand)
1964.4.4
Jazz Workshop → Fantasy
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
1964年4月4日録音。1964年にミンガス自身のジャズ・ワークショップ盤でアナログが出て、ファンタジーからCD化されている盤。このコールズ、ドルフィー、ジョーダンの3管で、ピアノはバイアード、ドラムはリッチモンドというメンバーでドルフィーの最後のツアーとなる欧州楽旅に出ることとなる。この盤では、過去からのメンバー経験のあるドルフィーが3管のメインとして活躍する。曲は17分超の①ソー・ロング・エリック、と27分超の②プレイング・ウィズ・エリック(メディテーションズ・オン・インテグレーション)、の長尺2曲のみ。もうひとつの62年の「タウン・ホール・コンサート」は「コンプリート」がタイトルに付きCD化されたので多少区別しやすくなった。(hand)
1964.4.10
Jazz Collectors
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
4月10日のアムステルダム、コンセルトゲボーでのライブCD2枚組。 CDは日本のDIWから出ていたが、現在はジャズ・コレクターズというレーベルから出ている。内容はほぼ同じと思うが曲順が違う。多分、DIW盤はプロデュース的な意味で曲順を変えたのだと思う。特にバイアードのニューオリンズ的なピアノソロ曲A.T.F.W.から始まるのを嫌ったのでは?と思う。また、パーカリアーナが入ってないのは元がアナログなので時間制約かもしれない。ドルフィーとともにジョーダンの活躍が素晴らしいと感じた。1週間後にパリで倒れてしまうコールズも頑張って吹いている。(hand)
1964.4.12
Polydor
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
64年4月12日オスロ録音のミンガスの4曲。メジャーのポリドールからではあるがかなり海賊的な音質の盤。メンバーはオスロが気に入ったのかいい演奏をしている。特に①ソー・ロング・エリック、のドルフィーの弾け方はすごい。残念なことに③オウ!と④Aトレイン、フェイドアウトだが、このメンバー、このツアーでのAトレインは珍しい。当日の1曲パーカリアーナ、はバンドスタンド盤に収録されている。DVD「ミンガス・ジャズ・ワークショップ」はこの日の映像で、曲目も同じ。他のバンドに比べるとメンバーが1箇所に固まって演奏しているのが珍しい。ドルフィーは頭のすぐ後ろでシンバルが鳴って耳に悪そうだ。(hand)
①1964.4.12
②③1972.8.22?
Bandstand
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
①:Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
②③:Charles McPherson(as), John Foster(p), Roy Brooks(ds)
64年4月12日オスロ録音のタイトル曲①と72年のヨーロッパ・ツアー(多分、シャトーバロン)の2曲②③を収録した海賊録音。長尺の①は「ライブ・イン・オスロ1964」に収録されなかった曲。③メドレーは、ドルフィーに比べるとあまりに普通のアルトだがチャールズ・マクファーソンのセンチメンタル・ムードがいい。バンドスタンドは海賊的な録音の多いレーベルだが、日本では徳間ジャパンが日本独自の絵ジャケを付けて売り出し、それなりに売れたと思う。実際にはマニア向きの音と内容だが、初心者が買ってしまうような作りで、それはそれで問題だと思う。ただ、この盤は放送用なのか音もそれほど悪くなく楽しめる内容ではある。(hand)
1964.4.13
Distart
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
ストックホルム録音を完全収録したと思われる2枚組の海賊盤。音も悪く、フェイドインもフェイドアウトもり、全く初心者にはオススメできない盤ではあるが、リハーサルテイクも含めて、このバンドの全貌を捉えた内容ではある。Disc 2②ホエン・アイリッシュ・アイズ・アー・スマイリング、はこの盤と「コーネル」にのみ収録された美しい曲で貴重だ。ジャケ表にはストックホルムの表示がなく、「オスロ」と書かれていて謎だ。(hand)
1964.4.13 & 14
Bandstand
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
ヨーロッパ・ツアーの1枚(海賊盤)。64年4月13日スウェーデン・ストックホルム録音①②③(ストックホルム盤に収録)と14日デンマーク・コペンハーゲン録音④を収録。このコペン録音は貴重。前日の録音よりも音は少々悪いが内容はいい。「パーカリアーナ」同様に徳間ジャパンがバンドスタンド盤をジャケ変更したもの。(hand)
1964.4.16
Sunnyside
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
64年ブレーメンの音源は以前からCD化されていたが、同じブレーメンの75年の録音と組み合わせて発売された4枚組CDの64年の2枚にドルフィーが入っている。64年春のミンガスの欧州ツアーは、4月17日のライブ中にジョニー・コールズが倒れ、メンバーから抜けたため、それ以前はセクステット、以後はクインテットで公演している。Disc1&2は64年4月16日なので倒れる前日のコールズ入りだ。ラジオ局のスタジオでの放送用録音のため音がいい。Disc1①ホープ・ソー・エリック、となっているがロング・ソー・エリックだ。翌日倒れるジョニー・コールズは体調が良くないのか既に勢いが弱まってきているように感じる。Disc3&4は10年以上経った75年7月9日の同じブレーメンでの放送用ライブ録音。ジョージ・アダムス=ドン・プーレンを含む強力なメンバーによる熱演だ。(hand)
1964.4.17
Jazz Collectors
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん ★★★★☆
ショーン ★★★★
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
アナログ盤「グレート・コンサート」冒頭曲①ソー・ロング・エリックはこの演奏で、CD盤「グレート・コンサート」の冒頭曲①ソー・ロング・エリックは、アナログと異なっている。ジョニー・コールズ のトランペットがこの曲のみ入ったセクステット最後のコンサートとなる。ソー・ロング・エリックの演奏中倒れたという説と、この曲は最後まで演奏してから倒れたという説がある。ラストテーマにトランペットは聞こえないので、曲途中に倒れたのだと思うが、演奏中に異変は感じられない。コールズは入院し、退院後はバンドに戻らず帰国してしまう。ミンガスバンドのツアーが行程、演奏ともに過酷であったのだと思う。いわゆる胃に穴が空くといわれる穿孔性胃潰瘍らしい。ドルフィーがツアーの2か月後に亡くなってしまった一因もこのツアーにあるのかもしれない。この盤の2曲目以降、クインテットでツアーは継続されていく。テーマアレンジが3管から2管に変わるがほとんど支障はなかったと思う。Disc2の後半③〜⑨にはチコ・ハミルトン時代のドルフィーのニューポートの演奏で、ミンガスは入っていない。(hand)
アナログ時代に、Great Concertとしてシャンゼリゼ劇場のライブがLP3枚組が出された時は、冒頭の「So Long Eric」だけは、前日のサレ・ワグラムの音源が使われていて、この経緯に関してはGreat Concert項で説明すると思うので割愛する。ジョニー・コールズの参加はこの一曲だけになってしまっているが、このSo Long Ericは好きな演奏だった。主役とも言えるドルフィの登場が後半なのだが、その出だしのドラマチックな感じがいつ聞いてもカッコいいと思ったものだ。ほかの演奏も含めて密度の濃いライブで、翌日のシャンゼリゼのライブとはほぼ同レベルの素晴らしい演奏である。ボーナストラックでなぜかニューポート・ジャズフェスでのチコ・ハミルトン・クインテットの演奏が入っている。真夏の夜のジャズで聴いた懐かしい音源だが、ミンガス作品とは関係がない。(しげどん)
ライブではあるが、全体的にはやや落ち着いた印象で、淡々と演奏が続く。中ではmeditations on integrationが、面白い構成とリズムの変化に富み、聞くものを圧倒する。ミンガスらしい自由な展開は、花や昆虫、動物の生き様的な大自然を感じる。(ショーン)
1964.4.19
America
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Johnny Coles(tp), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
この時期、このツアーの代表作とされているが、アナログ盤とCDで1曲目ソー・ロング・エリックの録音日が17日と19日で異なり、コールズ入りはアナログのみとなっているのでアナログ時の評価をそのままCDに引き継いでいいかは微妙だ。現在は、17日分は「サレ・ワグラム・コンサート」にまとめられ、こちらの盤は19日に統一されている。本来は18日夜のコンサートがバンドの到着が遅れ、開演が12時を過ぎ、録音日が19日となったようだ。ジョニー・コールズは、17日のサレで倒れて不参加だがMCでは紹介される。椅子にトランペットが置かれていたらしい。コールズはどんどん凶暴化していったバンドの演奏についていけてなかった感もあるので、かえって演奏はまとまったと言えるかもしれない。コールズ の抜けたソロスペースをドラムで補っている曲もあり、ツアーの全ての記録が素晴らしいという前提として、この盤が必ずしもツアーの代表作と言えなくなっていると感じた。(hand)
1964.4.26
Enja
おすすめ度
hand ★★★★
しげどん ★★★★
ショーン ★★★★
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
64年4月26日ドルフィー最晩年のミンガス・バンドでのヨーロッパ・ツアーの最後直前の記録の第1集(4月28日の録音の海賊盤CD「シュトットガルト・メディテーションズ」がラスト)。エンヤの正規録音なので音がいい。途中、ジョニー・コールズ は脱退したものの、同一メンバーで、3月18日のコーネル大から4月末まで演奏してきている。ドルフィーにあまり変化は感じないが、クリフォード・ジョーダンはツアーを通じて過激度が増したように感じる。ジョーダン後期の人気は、ミンガスバンドでのミンガス、ドルフィーとの共演により、一皮も二皮も剥けたことにより生まれたのではないかと考える。リバーサイド時代のスタイルのままであれば人気はそれ程は出なかったと思う。①フォーバス、は37分超の長尺で長いソロが好きな人にはたまらないと思う。ドルフィーのフルートをフィーチャーした②スターティング、は「言い出しかねて」に似たバラードでツアーの記録の中で珍しいと思う。(hand)
曲としては新しいものではないが、ドルフィをフィチュアした演奏を味わう作品かと思う。(しげどん)
情感溢れるエリック・ドルフィーのアルトをフィーチャリングし、バックで曲の流れをコントロールするミンガス。曲のスピードを自在に操り、聴く者を惹き込む。ジャッキー・バイアードの効果的でメロディアスなピアノやドルフィーの管楽器とダニー・リッチモンドの打楽器の掛け合いなども面白く、飽きない曲展開はミンガスの真骨頂だ。(ショーン)
1964.4.26
Enja
おすすめ度
hand ★★★☆
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
ドルフィー最晩年のミンガス・バンドでのヨーロッパ・ツアーの最終直前記録の第2集。第1集に比べピアノ&ベースが多くフィーチャーされるので、ピアノ&ベースを聞きたい人にはいいと思う。 ⑤ソー・ロング・エリック、のドルフィーはぶっ飛んだ感じの凄さだ。(hand)
1964.4.28
Get Back
おすすめ度
hand ★★★★
Charles Mingus(b),
Eric Dolphy(as,b-cl,fl), Clifford Jordan(ts), Jaki Byard(p), Dannie Richmond(ds)
現在入手困難盤になっていてやっと入手した海賊盤2枚組。64年4月28日、ミンガス=ドルフィーのヨーロッパツアーの最終録音。海賊盤だけに、2日前の「イン・ヨーロッパ」と続けて聞くと音は悪いが、このメンバーでのラスト録音で、集大成ライブとも言える内容なので、聞いていると音質は気にならなくなる。Disc 1②ジーズ・フーリッシュ・シングス、はドルフィーのフルートとミンガスのベースとのデュオで珍しい。1曲ずつがかなり長時間化していて、Disc 2①メディテーションズは、ミンガスとドルフィーの最後の共演盤に相応しいフルートとベースの相互交換がたっぷりと聞かれる。この後、ドルフィーはヨーロッパに残り客死し、帰米したミンガスはアルトにジョン・ハンディ、そしてチャールズ・マクファーソンを加えていく。(hand)
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