ベースの巨匠で、総合音楽家としても巨匠といえるといえるチャールズ・ミンガス(1922.4.22-1979.1.5)を取り上げます。アリゾナに生まれましたが、幼い頃にロスに移住しています。1940年、18歳からプロ活動を開始し、46~48年にライオネル・ハンプトン楽団に参加したことで頭角を現します。52年にニューヨークに進出しますが、生計を立てるため一時期、郵便局員をやっていたこともあるようです。しかし、パーカーに勇気づけられジャズ界に復帰しました。同年、ローチとともに、自己のレーベル、デビュー(Debut)を立ち上げます。ここでの、ジャズ・ワークショップがその後のミンガス・ミュージックの元となっているように思います。56年に「直立猿人」を録音し、ミンガス・ミュージックは確立し、生涯を通じてこれが存続したと感じます。今回は、人気のミンガス=ドルフィー時代などを含め、生涯のあらゆる時期から、ミンガスのオススメ盤を談義しました。(しげどん)
今回の談義では、「直立猿人」が、3人そろっての高評価で他盤を圧倒し、2位以降は票が分かれた。50年代からミンガス=ドルフィーまでを高く評価したしげどん、初期の盤からだけでなく後期の発掘盤でも新鮮な耳で高評価したショーン氏、前期を愛聴しているが、今回、後期も聞いてみて、中には素晴らしい盤もあると再認識した私hand。そして、談義の結果は、2位がドルフィーとの「プレゼンツ・ミンガス」、3位がマクリーン、ブッカー・アービン、ペッパー・アダムスなどが入り、「猿人」の陰に隠れがちの大傑作「ブルース・アンド・ルーツ」、4位が後期70年代の名盤「カーネギー・ホール」。この盤はデラックス化されなければ選ばれなかったと思う。5位が同じく後期70年代の発掘盤「ロスト・アルバム・フロム・ロニー・スコッツ」が選ばれた。選外では、ミンガス=ドルフィーの「サレ・ワグラム」、「ファイブ・ミンガス」、「トゥナイト・アット・ヌーン」、そして猿人直前の「ボヘミア」が健闘した。(hand)
・新宿ジャズ談義の会 :チャールズ・ミンガス CDレビュー 目次
Charles Mingus(b),
Jackie McLean(as), J.R. Monterose(ts), Mal Waldron(p), Willie Jones(ds)
人類(ミンガス)の前史時代に別れを告げ、歴代時代の始まりを告げた大名盤。ミンガスは、この「直立猿人」という作品で、その個性が完全に確立されたと思う。作編曲能力が飛躍的に高まるとともに、他の伴奏を中心としたベーシストとは全く異なるプロデューサー的かつ個性的なベースプレイも確立し、リーダーとして独自のミンガス・ワールドを描き出すことに成功した。マクリーンとJRの双子の兄弟のような息の合ったプレイとマルの憂いを帯びたピアノが作品を独特のものに仕上げている。(hand)
素晴らしい!それぞれの楽器が自由に演奏しつつ、全体として一つの世界観を見事に表現した名盤だ。特にアルバムタイトル曲の「直立猿人」は、まるで動物のような雄叫びサックスと着実に歩みを進めるミンガスのベースが、生命の進化という大きなテーマを具現化しているように思え、何度も聴き込みたくなる。他の曲も生き物のようである。(ショーン)
ジャズを聴き始めた40年以上前、私はまだ高校生だったが、名盤だと言うことで買ったLPで、サキコロやマイルスのリラクシンの後くらいだったろうか?モダンジャズのアドリブの面白さ以上に、編曲で作り込まれた作品のインパクトにいきなり打たれた記憶がある。ジャッキー・マクリーン、マル・ウォルドロンにとっても生涯の傑作といえ、この作品の凄さはこれ以上は言葉では表現できない。4曲入っているLPだが、表題曲が凄すぎて、ほかの3曲も悪くはないが逆に印象が薄れた感じがする。それくらいこの「直立猿人」一曲のインパクトは強烈だ。間違いなくジャズの歴史に残る名盤。(しげどん)
Charles Mingus(b),
Ted Curson(tp), Eric Dolphy(as,bcl), Dannie Richmond(ds)
ミンガス=ドルフィーの個性が強烈に発揮された名盤。ブッカー・アーヴィンが抜けてメインソロイストとなったドルフィーが脱皮して生まれ変わったような素晴らしいソロを吹いている。ドルフィーのリーダー第2作「アウト・ゼア」がこの間に吹き込まれている。ドルフィーの進化で、ミンガスにとっても最高名盤の1枚となった。このセッションで録音されたバラード曲、ストーミー・ウェザー、は「ミンガス」と「キャンディド・ドルフィー」の両盤に収録されている。ドラムソロのメロディ・フォー・ドラムス、はこの盤のオマケ収録されたものがある。テッド・カーソンが意外なほど活躍する。モノ盤と(偽?)ステレオ盤があるが、ベース&ドラムとトランペット&ドルフィーが左右に分かれたステレオよりも、モノ盤の方が圧倒的に音がいいと思う。モノながら音の拡がりがある。ミンガス=ドルフィー時代の原型となった盤と言える。(hand)
バップ時代から活躍しているチャーリー・ミンガスが、1960年という時点でこのような先進的な作品を創造していた事にあらためて驚いてしまう。Ah Umではテーマのメロディが分かりやすく前面にでていたが、本作はミンガスの構成力と、それに応えるドルフィ、テッド・カーソンをはじめとしたたった4人のピアノレスカルテットでの濃密な演奏的が素晴らしい。Folk Formsが一番カッコいいと感じたが、オーネット・コールマンもデビューしたての頃に、このような先進的な作品を作っていたのだ。フォーバス知事の歌詞入りバーションに関しては、以前はメッセージ性が強すぎる、と思っていたが、ラップを先取りしたような音楽と歌詞が融合した新しさが当時はあったのではと思う。高い完成度がありながら、実験的な要素が多すぎて、大手コロムビアには刺激が多すぎて扱えなかったのだろう。(しげどん)
ミンガスの演奏は曲というより音、いや声だ。しかも人間とは限らないところがあり、何かの魂の叫び的な気がする。このアルバムもそんな独特の雰囲気があり、型にハマらない自由を感じる。テッド・カーソンとエリック・ドルフィーもよく理解して、ミンガスに呼応して、一つの魂の叫びを作っている。(ショーン)
Charles Mingus(b),
John Handy, Jackie McLean(as), Booker Ervin(ts), Pepper Adams(bs), Jimmy Knepper, Willie Dennis(tb), Horace Parlan(p:except 6.10), Mal Waldron(p:6,10), Dannie Richmond(ds)
水曜の夜の祈りの集いは名曲というより名演か。ミンガスの作品は一聴難解なようでいて実はメロディが分かり易く印象に残る曲が多い。この一枚はそういう意味で、いい曲、分かりやすい曲が揃っていて、しかもジャズ的な魅力満載。ホレス・パーランのピアノなどは最高にアーシーで、ファンキーのそのものだ。曲単位では「直立猿人」がNO1だと思う私だが、いい曲が揃っているこのアルバムは、ミンガスのNO1作品と言ってもいいと思う。(しげどん)
ミンガスらしさが濃厚に出た傑作。JMと同名異曲の③モーニン、が目玉で、「直立猿人」以来のマクリーンと、新たに迎えたペッパー・アダムスの炸裂するバリサクが突出して素晴らしい。アダムスの破壊力抜群の大名演で、サイド名盤の1つではないかと思う(バード=アダムスでのヒア・アム・アイ、がこれに準ずると思うが、他のサイド名盤をご存知でしたらお知らせください。)。私の場合、マクリーンとアダムスに目(耳)が行ってしまうのだが、アービンやハンディ、ネッパーらも素晴らしい。そして何より、ミンガスのベースがクッキリと録音され、以前の盤に比べミンガスというベーシストのベースそのものを味わうことができると思う。CD追加の4別テイクもいい。(hand)
9人編成という、とんでもない大人数のコンボ、決して雑然とすることはないが、その熱量は半端ない。叫び声?もあり、盛り上がったモン勝ちというノリが楽しい世界だ。(ショーン)
Charles Mingus(b),
Jon Faddis(tp), George Adams(ts), Hamiet Bluiett(bs), Don Pullen(p), Dannie Richmond(ds),
Disc 2②③:Charles McPherson(as), John Handy(as,ts), Roland Kirk(ts,stritch)
前作「ムーヴス」と同じ、アダムス=プーレン+リッチモンドに、バリのハミエット・ブルーイットとロンドンで共演したジョン・ファディスを迎えたカーネギーホールでのライブ。前作とほぼ同メンバーながら前作と違いミンガスらしい盤に感じるのは、ペギーやフォーバスなどいつものミンガス曲やエリントン曲が入っていることがやはり大きいと思う。現在は未発を加えて2枚組完全版デラックス・エディションとなっているが、調べるとなんと元盤アナログはDisc 2ラスト2曲のエリントン曲がAB面各1曲だった。通常のCD化では冒頭に置かれる元盤収録曲がラストにある。なのでアナログに親しんだ人には全く違う盤と感じるのではないかと思う。その2曲2 ②パーディド 、③Cジャム・ブルースは、旧メンバーのマクファーソン、カークやハンディがゲストで入りミンガスOBオールスター・ジャムのような様相で、前半と印象も違うが、ブルーイットが一本、筋を通してくれているように感じた。デラックス盤も元盤も、素晴らしい盤であることに変わりはない。(hand)
1曲目からパワー全開の素晴らしい演奏だ。JON FADDISのトランペットの雄叫びが凄い!またHAMIET BLUIETTのバリトンサックスが曲全体に厚みとスパイシーさを加えており、他のJAZZコンボとは、全く異なるオリジナリティ溢れるものに仕上がっている。しかも時に静かにピアノソロ、テナーソロが入ったりと、緩急の付け所がまた素晴らしい。このアルバムはミンガスの、いやフリージャズの大傑作名盤だ。残念なのは2枚目、単調すぎる。そのため減点した。(ショーン)
デラックス・バージョンになって、前半のミンガスらしい曲が明らかになった。後半はジャムセッションなので、ゲスト出演のメンバーも含め、いいソロをとっていて悪くはないが、ミンガスの表現としては評価できない。このライブは、デラックスバージョンになってはじめて価値があがった。(しげどん)
1972.8.14 & 15
Resonance
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん ★★★☆
ショーン ★★★★★
Charles Mingus(b),
Jon Faddis(tp), Charles McPherson(as), Bobby Jones(ts,cl), John Foster(p,vo), Roy Brooks(ds,musical saw)
斬新なドラミングをはじめ、各自が自由奔放に演奏しているような雰囲気だが、何故か統一感があり、新しさと美しさを感じる。特に3管のハーモニーが力に満ち溢れ、迫るものがある。ミンガスのベースの音も締まりがあり、ピッチ(速さ)をコントロールしている。高音のトランペットも凄い歌までアリの熱いライブの名演奏だ。(ショーン)
2022年発掘の72年8月14,15日のロンドン、ロニースコッツでの3枚組ライブ盤。ロンドンでは2週間にわたり公演したようだ。いつもと少しメンバーが違い、ジョン・ファディス、ロイ・ブルックスという珍しいメンバーが入っている。他はマクファーソン、ジョーンズとフォスターというこの時期のメンバー。 Disc 1は、ミンガス臭がやや弱く、普通のモダンジャズに近い感じがする。かと思うとDisc 2 はいつも以上にフリーな感じで、次のジョージ・アダムス=ドン・プーレン時代につながる感じがある。レーベルはレゾナンスなので音はいい。Disc 3が選曲のせいかいつものミンガスに近い感じがする。ファディスのハイノートはこれまでのミンガスサウンドにない新鮮な響きがある。ブルックスのノコギリをバイオリンの弓で弾くミュージカルソーという楽器の幽霊音のような不思議音が聞かれる。また、フォスターがピアノでなくボーカルも素晴らしいことに驚く(聖者の行進)。ミンガスの長めのベースソロも聞かれる。 CD3枚の長尺だが、勢いがあり飽きないライブだ。(hand)
どんどん一曲が長くなり、メンバーのソロの時間が長いので、途中で何の曲かわからなくなる。悪いメンバーではないのだが、コルトレーンやドルフィを聴くようなような気持ちでは聴けないのだ。これは好みの問題だが、私には冗長に感じてしまう。ミンガスを味わうのはやはり曲が重要かと思うので。(しげどん)
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