ペッパーは1982年6月15日に脳溢血で56歳で急逝しています。若い頃からの悪癖が脳血管を痛めていた可能性はあります。ただ、(復活前もそうですが)復活後の演奏に不調といえるものはなく、ほぼすべての録音が快調なペッパーの記録となっています。5月30日のクール・ジャズフェスでのラスト録音まで快調なペッパーが聞かれます。特に「ロード・ゲーム」などメイドン・ヴォヤージでの4枚は素晴らしいと思います。
アート・ペッパーのCD ディスク レビュー 目次
→アート・ペッパーのCDリーダー作① 初期作品1951年~54年へ
→アート・ペッパーのCDリーダー作② 復帰後1956年~57年へ
→アート・ペッパーのCDリーダー作③ 復帰後後期 1958年~60年
→アート・ペッパーのCDリーダー作④ 後期 本格復活直前まで ~1975年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑤ 本格復帰 1975年~1977年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑥ ギャラクシーへの移籍 1978年~1980年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑦ 1980年~1981年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑧ 死の直前まで 1981年~1982年 ・・・このページ
Art Pepper(as,cl),Duke Jordan(p),David Williams(b),Carl Burnett(ds)
81年7月3日、珍しいデューク・ジョーダンとの唯一の共演盤2枚組。ケイブルスがこの日、急遽参加できず、地元にいたジョーダンがトラ(代理)で参加したらしい。ケイブルスは、7月25、26日の「ホランド」には参加している。あまり相性が良くないのでは?と想像したが、ベースとドラムがペッパーのいつものリズム隊ということもあり、特段の違和感は発生しなかった。それぞれがマイペースでも悪い化学反応は起きなかった。選曲がオリジナルを減らして、いつもはあまりやらないビバップ曲やスタンダードが多いのは楽しめる要素で、録音もいいので聞きやすい。ジョーダンが小節の頭にコードを入れる習性が気になる人にはなるかもしれない。(hand)
Art Pepper(as),Milcho Leviev(p),Bob Magnusson(b),Carl Burnett(ds)
初心者が気に入りそうなオランダのキレイな景色のジャケだが、マニア向けの完全海賊音源だ。音が悪いだけでなく、①トゥルーブルースはいきなり曲途中から始まる。④ランドスケープもフェイドアウトで幕切れになる。録音した場所がホールではなくクラブのせいか、ベース音がアコースティックな点は唯一好ましい。(hand)
Art Pepper(as),George Cables(p),David Williams(b),Carl Burnett(ds)
82年6月15日に亡くなってしまうちょうど10カ月前の81年8月13、15日の録音。「ロードゲーム」、「アート・リブス」、「APQ」、「アーサーズ・ブルース」の4枚が、ロスのクラブ、メイドン・ヴォヤージでの2日間のセッションからの盤。メンバーは、ジョージ・ケイブルス、デビッド・ウィリアムス、カール・バーネット。ペッパーはとても元気で、演奏は快調だ。最晩年になり、昔の軽やかな高音も戻ってきた感じがする。内容も音もクオリティの高いライブだ。4枚ともに素晴らしいので、どの盤が好きかは選曲によると思う。初出盤で新曲が多い「ロードゲーム」は晩年の傑作ライブだと思う。「アート・リブス」(未CD化)と「APQ」(未CD化)ももちろん悪くないが、選曲が他盤とかぶっているのが多少不利だと思う。「アーサーズ・ブルース」は残り物的位置づけだが、選曲が私の好みにあっている。未CD化の2枚は「コンプリート・ギャラクシー・レコーディングス」で聞くことができる。(hand)
Art Pepper(as:1, 2 & 6),Zoot Sims(ts:1 & 3-6),Victor Feldman(p),
Barney Kessel(gr:4 & 5),Ray Brown(b:1 & 3-6),Charlie Haden(b:2),
Billy Higgins - drums
パブロから若い頃のセッション仲間ズート・シムズとの共演盤。リズム隊は、ヴィクター・フェルドマン、レイ・ブラウン、ビリー・ヒギンズに一部バーニー・ケッセルが加わる。U.C.L.A.でのライブで、2人が一緒に吹いているのは全6曲中最初と最後の2曲のみ。ズートが所属するパブロなので、ペッパーはこの他1曲②虹の彼方のみとゲスト扱いだ。この虹が10分超の大虹でなかなか感動的だ。ただ、この1曲だけ、レイ・ブラウンがチャーリー・ヘイデンに交代しているのも不思議で、まだまだ未公表テイクがあるような気がする。ペッパーに続けてズートを聞くと、ずっと大人の音楽に聞こえてしまった。最初から老成タイプのズートと、いつまでも若者気質のペッパーの違いが音に出ている。それがペッパーの魅力でもある。(hand)
Art Pepper(as),George Cables(p),David Williams(b),Carl Burnett(ds)
「コンプリート網走コンサート」と同日の録音なので、ダイジェストかと思うと、①ビリーズバウンスだけはコンプリートには入っていない。音が微妙に違う気がするので、録音かマスタリングが別なのかもしれない。(hand)
Art Pepper(as),George Cables(p),David Williams(b),Carl Burnett(ds)
「アンリリースドVol.1」 として公式発売された私家録音の2枚組。JVCから没後25周年記念で日本盤も出ている。1981年11月22日北海道網走市民会館での録音だ。海賊録音としては比較的音はいい。ケイブルス、ウィリアムス、バーネットという馴染んだメンバーとの演奏で、ペッパーも快調だ。コンプリートと謳いながら同日録音のTDK盤「ファー・ノース」に入っているビリーズバウンスがなぜかこの盤には入っていない。(hand)
Lee Konitz(as),Art Pepper(as,cl⑤),Michael Lang(p),Bob Magnusson(b), John Dentz(ds)
ウォーン・マーシュとの共演は1956年だったので、マーシュの相方コニッツとの共演まで25年かかった。クール時代のコニッツ=マーシュの路線とは全く違う感じになるかと思うと、コニッツはいくらウォームになってもサックスの音色はやはりクールで、ペッパーと比べると竹製のサックスみたいな音色に聞こえる。ペッパーもいつもより多少乾いた感じの演奏をしていて、トリスターノ盤的に聞こえる場面もある。バラードもいつものペッパーらしい湿り気は少ない。
「アート・ペッパー・プレゼンツ・ウエスト・コースト・セッションズVol.3」として再発されている。(hand)
1982.2.16
Palo Alto
hand ★★★☆
ジャズ・クリスマス/PAJショーケース(Mistletoe Magic)
Richie Cole(as,ts,bs),Art Pepper(as,cl),Roger Kellaway(p),Bob Magnusson(b),Billy Higgins(ds)
パロアルトからリッチー・コールのリーダー盤に客演。コールは80年頃パーカー派のアルトとして売り出していたが、内容がパーカーというよりもディジー的な明るいバップで日本ではあまり受けなかったと思う。Wアルトを期待すると、コールはアルト、テナー、バリで、ペッパーはアルトとクラだ。スティットとの「グルービン・ハイ」のようにアルトの激突のような盤のほうが面白かったと思う。ペッパー作曲の③アーツオパス#2もあるので、共同リーダー盤なのであろう。現在は、「リッチー・コール・ミーツ・アート・ペッパー」(写真)として米CDが出ている模様。この日に収録したクリスマス曲”そりすべり”がパロアルトのオムニバス「ジャズ・クリスマス/PAJショーケース」に収録され、こちらはCD化されている。ペッパーのクリスマス曲は珍しく、なかなか楽しい盤だ。(hand)
Art Pepper(as),Joe Farrell(ts),George Cables(p),Tony Dumas(b),John Dentz(ds)
ペッパーとジョー・ファレル、ジョージ・ケイブルスの3人の共同リーダーとされている盤。ファレルとの2管のせいか、ペッパーには珍しく東海岸のハードバップな感じがする。①④が2管、②がファレル、タイトル曲⑤がペッパー、③⑥がケイブルスのトリオ演奏というやや散漫な内容。ペッパーのワンホーンはまずまずの出来だと思う。(hand)
Art Pepper(as),George Cables(p)
亡くなる2か月前がこのセッションで、1か月前が「ゴーイン・ホーム」のセッション。ペッパーが急死しなければ、2セッションからベストテイクを選んで、落ち着いた曲だけの盤を作ったのでは?と想像してしまう。というのもチュニジアなどはデュオ向きの曲ではなく、デュオセッションがダレないよう途中で演奏したのではないかと思えるからだ。急死により1か月前のセッションのラストという重要性が出てきて、今の形での2枚の発売になったのでは?と考える。とはいえ、このセッションが素晴らしくない訳ではなく、これはこれで素晴らしい。スタン・ゲッツ&ケニー・バロンの「ピープル・タイム」と似たセッションと例える人もいるようだが、ペッパーは急死で、末期癌だったゲッツとは違うと思う。最終盤に思い入れを感じるのは聞く側の自由だが、ペッパー自身はいつもの自分を出していただけのように感じる。(hand)
Art Pepper(as,cl),George Cables(p)
クラの①家路から始まる。翌月ペッパーが急逝したので、もの悲しいこの曲を冒頭に発売したと思われる。全8曲中4曲とクラ率の高い盤だ。ペッパーのクラが他のクラ奏者よりも好きという人もいるらしいが、やはり私はアルトが聞きたい。(hand)
1982.5.30
Toy's Factory
Widow's Taste
hand ★★★★
Art Pepper(as,cl:⑤),Roger Kellaway(p),David Williams(b),Carl Burnett(ds)
亡くなる2週間前、1982年5月30日、クール・ジャズフェスでのラスト録音。ペッパーは6月15日に脳溢血で急逝したので、2週間前でも元気に演奏していて、病を押して演奏しました、というような湿っぽさはない。まだ56歳だったのだ。ローリーの発掘盤「アンリリースドVol.2」 としても発売され、日本のJVCから没後25周年記念「ザ・ラスト・コンサート1982」としても出ている。ローリー盤はMCを1曲扱いにしているので、MCの飛ばし聞きはしやすい。(hand)
アート・ペッパーのCD ディスク レビュー 目次
→アート・ペッパーのCDリーダー作① 初期作品1951年~54年へ
→アート・ペッパーのCDリーダー作② 復帰後1956年~57年へ
→アート・ペッパーのCDリーダー作③ 復帰後後期 1958年~60年
→アート・ペッパーのCDリーダー作④ 後期 本格復活直前まで ~1975年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑤ 本格復帰 1975年~1977年
→アート・ペッパーのCDリーダー作⑥ ギャラクシーへの移籍 1978年~1980年
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