ART PEPPER=アート・ペッパー リーダー作CDレビュー 2


このページでは、ペッパー生涯のピークとも言える1956年の復帰から57年にかけての作品を紹介しています。この二年足らずの期間は、ペッパー生涯のうちでもっとも重要な時間でした。

出所して、音楽界に再復帰したのは1956年6月。直後の7月5日にショーティ・ロジャースのバンドに参加したのが復帰第一作。そして56年~57年まで神がかり的な傑作を連発します。

 ペッパーの復帰第一作となった56年7月の録音を含むショーティ・ロジャースの「ビッグ・ショーティ・エキスプレス」

刑務所を出所する前後の経緯はペッパーの自伝や、フレッシュ・サウンド盤の「アート・オブ・ペッパー」のリーフレットに詳しいです。

とにかく天才のハチャメチャな人生は驚くべき記述が多く、特にフレッシュ・サウンド盤のリーフレットは面白いので、一読をおすすめします。

 この作品はジャケ違いや発売元がいろいろあるが、リーフレットが面白いのはこのフレッシュサウンド盤。ブルース・ロックとロック・ブルースという未収録曲も収録されている。

アート・ペッパーの自伝

 ジャズ批評のペッパー特集はアート・ペッパーの詳しいディスコグラフィーやインタビューなど読み応え充分な内容


この時期はペッパーの天才ぶりを発揮した名作が多いですが、その録音経緯も天才のハチャメチャぶりを現わしていて相当すごいので、上記にあげたペッパー関連書籍も、彼には申し訳ありませんが、面白さは尋常ではありません。自伝は私生活中心に語られ、麻薬やセックスの描写ばかりでやや辟易しますが、上記フレッシュサウンド盤のリーフレットは音楽的な視点での記述が多く、ファンには貴重な資料といえましょう。

彼は56歳で亡くなってしまうわけで、そのこと自体は残念でなりませんが、この生き方を知ると、早い死が避けられなかったものだったとも思ってしまいます。


Marty Paich Quartet Featuring Art Pepper  マーティ・ペイチ・カルテット・フィチュアーリング・アート・ペッパー

1956年7月17日

Tampa

※録音日データはジョルジ・プジョールによるフレッシュサウンド盤のリーフレットをもとに記載

おすすめ度

 hand    ★★★★☆

しげどん ★★★★☆

ショーン ★★★★☆

Marty Paich(p),Art Pepper(as),Buddy Clark(b),Frank Capp(ds)

実質的にはペッパーのリーダー作。「貴方と夜と音楽」で有名な出所後の第一作。

ペッパーの前期に相性が良かったピアニストは、ラス・フリーマン、カール・パーキンス、ハンプトン・ホーズなど数人いる。中では、マーティ・ペイチが、かなり合っている。ただ、この盤はペイチのリーダー盤ながら、事実上、ペッパーのリーダー盤として聞いても違和感はない。同じタンパの双子盤のような「アート・ペッパー・カルテット」とは甲乙つけがたい名盤だが、ピアノと選曲の違いで、多少の違いが出ている。どちらも全体として上位3作と比べると、演奏時間の短さが原因かもしれないが、あっさりして薄味だと思う。ペイチは、基本的には、ピアニストというよりもアレンジャーだが、トリオでの盤もあり、ピアノも結構上手くて、落ち着きのある優雅なピアノを弾く。この盤の有名曲は②貴方と夜と音楽と、だが、私の趣味としては貴方夜はトランペットかピアノ向きの曲で、①ホワッツ・ライト・フォー・ユー、の方がカッコよく感じる!ベースのバディ・クラークも太い音色でいい感じで、フェイドアウトがちょっと残念。調べてみるとこの曲、意外と演奏されてなくて、ボーカルのアイリーン・クラール、リナ・ホーンくらいしかなく、隠れ名曲だ!⑤虹の彼方に、も短いながら美しい。(hand)

マーティ・ペイチのリーダー作だが、実質的にはアート・ペッパー・カルテットだ。ペッパーが出所したのは1956年6月。タンパのロバート・シャーマンの証言によると、このレコードの録音は1956年7月17日という事で、復帰後の最初の正規録音盤である。ミディアム・テンポの「貴方と夜と・・・」が有名だが一曲目の「ホワッツ・ライト・・・」のしっとりとした出だしの雰囲気もいい。でもなぜかフェイドアウトしてしまうのが、いつ聴いても違和感がある。A面最後の「Over The Rainbow」はショーティ・ロジャースと吹き込んだ名演の再演だが、これに関してもオリジナルのロジャース&ジャイアンツのバーションに軍配をあげたい。(しげどん)

優しい音色のペッパーは澱みがなく、マーティペイチの雰囲気のあるピアノとのマッチングがとても良い。全体を通して澄んだ爽やかな印象のアルバムだ。(ショーン)

※マーティ・ペイチのリーダー作ですが、事実上アート・ペッパーの作品なので、ペッパーのリーダー作として扱っています。



The Return of Art Pepper/リターン オブ アート・ペッパー

1956年8月4日,11日,17日

Jazz West

おすすめ度

hand ★★★☆

しげどん ★★★★

ショーン ★★★★☆

Art Pepper(as),Jack Sheldon(tp),Russ Freeman(p),Leroy Vinneegar(b),Shelly Manne(ds)

出所後復帰のリーダー第一作でつややかなソロを展開

本格的な復帰第一作としてアラジン傘下のジャズ・ウエストというマイナー・レーベルに吹き込まれた。タイトル曲は絡み合いのテーマ提示で、賑やかな曲調が意外な感じ。ジャック・シェルドンの起用がやや疑問だがペッパーのソロはテンポに乗って艶やかな音色だ。そのほかのペッパーのオリジナルもミディアム以上のテンポが多いがソロは快調で、出所したてとは思えない素晴らしい演奏だ。(しげどん)

名盤とされているが、ジャック・シェルドンのトランペット入りの西海岸的な演奏は好みではない。特に①ペッパーリターンズ、の慌ただしい感じのスタートは、好感が持てない。ジャック・シェルドンを何故入れたのか?プロデューサーなのか、ペッパーなのか、いずれにしても、ワンホーンが良かった。③ユーゴートゥマイヘッドはワンホーンでペッパーらしいバラードで素晴らしいのだが、録音のせいか、やや線が細い気がする。それ以外の曲も全体にやや慌ただしく感じ、録音にも不満があり、評判ほどの名盤とは思えない。⑥からの後半はなぜか多少録音が安定する。⑧パトリシアは素敵なバラードだ。(hand)

ペッパーのアルトにジャックシェルドンのトランペットが軽快に絡んで、良くまとまった演奏が聴ける良質なアルバムだが、ややリアリティと迫力が不足している気がする。ラスフリーマンの自由な音階のピアノも時にスパイスなっていて面白いのだが、お決まりの流れの範囲だ。その中ではPatriciaでのペッパーのアルトは、気持ちが入った素晴らしいバラードだ。(ショーン)

※従来のアルバムやブルーノートで再発されたコンプリート・アラジン・セッションでのデータである8月6日はジョルディ・プショールの調査によると間違いであることが判明しました。経緯はフレッシュサウンド盤「アート・オブ・ペッパー」リーフレットに詳述されています。



Art Pepper Quartet /アート・ペッパー・カルテット

1956年11月23日

Tampa

おすすめ度

 hand    ★★★★☆

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★★

Art Pepper(as),Russ Freeman(p),Ben Tucker(b),Gary Frommer(ds)

ペッパーの代表曲「ベサメ・ムーチョ」収録の人気盤

ペッパーは快調で、リズム隊との相性もいい。速い曲は快適に、バラードは甘さを排していい感じだ。ラス・フリーマンも、いつもの西海岸的な慌ただしいピアノではなくエレガントだ。有名な⑤ベサメ・ムーチョは、やはり必聴の名演だ。(hand)

この盤の人気の一曲はベサメ・ムーチョだし、もちろん悪くはないのだが、私には全7曲中5曲のペッパーのオリジナルがさらに魅力的だ。ここでのミディアムテンポのオリジナル曲はつややかでスムーズな当時の彼の魅力を引き出している。(しげどん)

元気なアートペッパーのアルトは、声高らかに天空に響き渡り、夜空の天の川から星屑がこぼれ落ちてくるようだ。ラスフリーマンのピアノは、少し余裕が無い感じだが、それをカヴァーして余りあるペッパーの勢いは素晴らしいものがある。特にdianeの優しい音色とbesame muchoのボサノヴァ調でキレのある演奏は何度も何度も聴きたくなる習慣性のあるgoodなフィーリングだ。(ショーン)



Art Pepper With Warne Mash/アート・ペッパー・ウィズ・ワーン・マーシュ

1956年11月26日

Contemporary

   下はオリジナルバージョンのザ・ウェイ・イット・ワズ=マーシュとのコンビだけでなく、リズム・セクション,ゲッティン・トギャザー,インテンシティの未発表曲を収録していた。現在はそれぞれのアルバムにボーナス・トラックとして収録。

おすすめ度

 hand    ★★★★

しげどん ★★★★

ショーン ★★★★ 

Art Pepper(as),Warne Marsh(ts),Ronnie Ball(p),Ben Tucker(b),Gary Frommer(ds)

ワーン・マーシュとの対比でペッパーの個性が際立つ

アナログ時代は「ザ・ウェイ・イット・ワズ」として出ていた盤。とはいえ、「ザ・ウェイ」は落ち穂拾い的作品で、A面は「ウィズ・マーシュ」のセッションから、B面は「リズム・セクション」、「ゲッティン・トゥゲザー」、「インテンシティ」という各コンテンポラリー盤の未収録曲からなっていた。CD化で未収曲が各盤に+αとして収録されたことから、この盤は「ウィズ・マーシュ」として特化した内容で出されることになった。「モダン・アート」、「リズム・セクション」という黄金盤の直前の録音なので、ペッパーは悪くない。繊細な音色のペッパーは、ワンホーンがいいが、ペッパーの2管のハーモニーを楽しむとすれば、トランペットよりもテナーとの組合せのほうがいい。特にジャック・シェルダンとの「リターン・オブ」のような西海岸的な慌ただしさは私は苦手だ。ただ、アトランティックの「コニッツ〜マーシュ」に比べると、マーシュとのコラボ度で一歩譲ってしまう。同じクール派の組合せのほうがやはり最良のプレイが引き出されるのだと思う。ペッパーだと暖かいと冷たいの組合せとなってしまう。テッド・ブラウンの「フリー・ホイーリング」は同格だと思うが、私にはこちらが聞きやすい。⑦ティックル・トゥー、⑧⑨ウォーニン、⑩サボイ(ワンホーン)のラスト3曲はいい感じだ。ただ、マーシュには悪いが、マーシュ抜きだったら、名盤の仲間入りしたと思う盤だ。この盤に限らず、別テイクを本テイクと並べて収録する方法は鑑賞の妨げだと思う。(hand)

ワーン・マッシュとのコンビ盤して1980年代にまとめられた作品で、ソロはペッパーが立役者だが、音楽的な主導権はワーン・マッシュ。トリスターノ派の土俵にペッパーが客演したフリー・ホイーリングの続編のような感じで、土台は9月にインペリアルに吹き込んだ双頭コンボの第一作(ジャズ・オブ・トゥー・シティズ)の流れ。ピアノも同じくロニー・ボールなので、雰囲気は似ている。個性的なマーシュのテナーは愛嬌があり嫌いではない。でも、がさついた岩肌のようなスカスカな音は、ペッパーの潤い充分な輝きをもつソロを際立たせる引き立て役という感じになっている。(しげどん)

ペッパーの繊細なアルトとマーシュの情感あるテナーが絡んだメロディアスなハーモニーが、このアルバムをかたどっている。ペッパーは終始パワフルに吹きまくり、これでもかこれでもかというくらい、自分の哀愁と闘っているようだ。what's newのバラードで強く表現されている。(ショーン)



Modern Art/Art Pepper  モダン・アート/アート・ペッパー

1956年12月28日

1957年1月14日

intro

↑コンプリート・アラジン・セッションのモダン・アート

未収録のダイアンズ・ジレンマ別テイクとサマータイムを収録

さらに「魅惑のリズム」「ウエッブ・シティ」「ビギンザ・ビギン」も収録されているが、これはモダン・アートとは異なるオメガ・セッションの別テイク。

↑これはオリジナル曲順を踏襲した盤。ただしボーナス曲は入っていない。

おすすめ度

 hand    ★★★★★

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★★

Art Pepper(as),Russ Freeman(p),Ben Tucker(b),Chuck Flores(ds)

ペッパーとマッチしたリズムセクションでのおそるべき最高作品。

CDは、セッション別の編集だが、アナログ時の、ブルース・インで始まりブルース・アウトで終わるアナログの曲順に並べて聞くことをおすすめする。その後、気が向いたらおまけのサマータイムを聞くべきと思う。「ミーツ・ザ・リズム・セクション」と比べると、サックスの音色に勢いが多少弱く感じるのは、レーベルが弱小で録音機材のせいなのかもしれない。ただ、結果的に、それが陰影を生み出しているとも言える。①ブルース・イン、ベースとアルトのデュオのブルース。名作の幕開けを告げる感じだ。②ビーウィッチド、明るさもあり憂いもある素晴らしいバラード。③君微笑めば、ペッパーは素晴らしい。ピアノのラス・フリーマンは西海岸なので当たり前なのだが、西海岸風でスイング感が弱い。④クール・バニー、こういう激しい曲のときに、西海岸ドラマー、チャック・フローレスは、ドライブする感じが出ないのが残念だ。⑤ダイアンズ・ジレンマ、この演奏は西海岸臭が強いく、あまり得意ではない。⑥サボイでストンプ、4人がまとまっているいい演奏だ。4バースのドラムはイマイチ。⑦恋とは何でしょう、ハードな締まった演奏。⑧ブルース・アウト、再度、ベースとのデュオのブルースで幕を閉じる。この作品の第二の主役はベースのベン・タッカーだと思う。ドラムのチャック・フローレスのドラムがもうちょっと強力だったらこちらを第一位に推した可能性もある。⑨おまけのサマータイム。内容は悪くないが、録音がややエコー気味なのが残念。(hand)

※参考  オリジナルアナログ盤の曲順

  Side 1  ①Blues In ②Bewitched ③When You're Smiling ④Cool Bunny

  Side 2  ①Daianne's Dilemma ②Stompin' At The Savoy ③What This Thing Called Love ④Blues Out  

●BLUES IN  静かに語りかけるようなペッパーのタメの効いたアドリブが素晴らしい。ベースのベンタッカーが、しっかりと底支えし、静謐な中に厚みと暖かみが感じられる名演

●BEWITCED  どこか聞き覚えのあるこの曲はミュージカル『Pal Joey』でリチャード・ロジャースが作曲したスタンダードナンバー。ペッパーは、ラス・フリーマンのピアノに導かれるまま、自然体で演奏、小粋なナンバーに仕上がっている

●WHEN YOU'RE SMILING  これもスタンダード。曲の展開とピアノのフレーズが、少し古臭い感じもあるが、まぁ安心して乗れる

●COOL BUNNY  新鮮な香りの漂うペッパー作曲のこの曲はその名の通り、COOLでスピーディーなJAZZ。チャック・フローレスのドラムがいい緊張感で締めている

●DIANNE'S DILEMMA  フリーマンのピアノが主導となり、ペッパーが絡む展開の曲。強さと可愛らしさを併せ持つ女性が、巧みに表現されている●STOMPIN' AT THE SAVOY  ペッパーという人は本当にスタンダード曲を上手く料理する。決してテーマから遠く離れることもなく、自由自在にアドリブを展開させて、完全にペッパーカラーにしてしまう

●WHAT IS THIS THING CALLED LOVE  軽快なリズムに乗るペッパーだが、あまりメリハリと特徴がなく、凡庸になってしまったか?ドラムもダサ弱い

●BLUES OUT  ブルースで始まりブルースで終わる。そういった意味でコンセプト感のあるアルバム。ペッパーの人生の辛さや悩みを吐き出すような力強いアルトの叫びは胸を打つ(ショーン)

私はこれがいちばん好きです。リズムセクションが陰影のある彼の特徴をよく引き出している上、アルバムとして、曲順や選曲がよく考えられていて完成度が高く、ジャケットデザインも格調があり、かって幻の名盤化された理由がわかります。ぜひアナログ盤を持っていたい一枚。(しげどん)



Show Time/Art Pepper  ショータイム/アート・ペッパー

1957年1月18日

Vantage

おすすめ度

hand      ★★★☆

しげどん  ★★★☆

Art Pepper(as),Carl Perkins(p),Clarence Jones(b),Lawrence Marable(ds)

テレビショー用の短めな音源だが、ペッパーのソロは快調

テレビショー用の客入りのスタジオライブ録音なので、1曲が短く、曲によっては音が悪いのが残念。ピアノソロは、特に少ない。ペッパーは、ミーツ・ザ・リズム・セクションの直前の絶好調の時期だ。唄入り、クラ持ち替えなどそれなりに楽しめる。コンプリート盤所収の⑧ザ・トリップ、⑨Dセクション、⑩ジュニア・キャットは、後年の1964年5月9日録音で、演奏時間も長く、コルトレーン的なフリーキー・トーンを聞かせるようになっていることに驚く。以前、フレッシュサウンド盤で出ていた「カルテット ’64」と同時期のもの。(hand)

かってALTOMANのタイトルでソニー・クリス,バド・シャンクとカップリングされて発売されたり、一部がバディ・デフランコのカリオペ盤SESSIONSのB面に収録されていた57年3月31日と1月18日のTV出演時の音源。前者ではドラマーのラリー・バンカーがピアノを弾いているのも珍しい。このころの音源は発売経緯がややこしいものが多い。一曲が短いが、ほとんどの時間がペッパーのソロに費やされているので全盛期の彼のソロは味わえる。音質は全体的にはよいとは言えない。(しげどん)

※Everything Happens To Meと題されたCDでは、Show Timeに収録された全曲に加え、未収録曲3曲が追加収録されている。



Art Pepper Meets The Rhythm Section  アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション

1957年1月19日

Contemporary

おすすめ度

 hand    ★★★★★

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★★

Art Pepper(as),Red Garland(p),Paul Chambers(b),Philly Joe Jones(ds)

マイルスのリズム隊とのガチンコ対決で、奇跡的な最高傑作がうまれた。

ジャズの歴史的名盤の1枚。「モダン・アート」とそう録音時期は変わらないが、ドラムの違いとレーベルの違いによる録音のクオリティの違いがはっきりとしていて、結果的にサックスの音も良く鳴っている。ペッパーは、一応ウエスト派のアルトだが、イースト的な音の強さを持っているのが特徴。もちろん繊細さもぴか一ではあるが、ペッパーの張りのある音色とマイルスのリズムセクションのガチンコ勝負したこの盤、録音の良さも相まってモダンジャズ屈指の名盤の1枚となった。ペッパー側主導と思われる選曲も、マイルスのリズム隊共演という意味では共通の「ゲッティン・トゥゲザー」よりも格段にいい作品となった理由だと思う。⑨バークス・ワークスとおまけ曲の⑩ザ・マン・アイ・ラブが東っぽい選曲だが、ペッパーは自分流に仕上げている。(hand)

陰影あるペッパーに対しザ・リズムセクションはいささか元気良すぎ?と思うのは私の意見。でもそれをジャズならではのスリリングな対決と評価するかどうかは好みの問題。ペッパーのソロに関しては聞き所が多く、名盤であることは異論の余地なし。イマジネイションのソロなどは至高の極みだ。(しげどん)  

●YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TOTO  誰もが知る名曲、隙と無駄のない完璧な演奏。サックスとピアノ、ベース、ドラムとの余裕のある競演も見事

●RED PEPPER BLUES サックスとピアノのハーモニーから始まるテーマが期待感を演出。ここでのピアノはメロディーではなく、どちらかというとドラムと同じリズムセクションの一員

●IMAGINATION  夜空にすーっと抜ける様なサックス。情感溢れるプレイはとてもメロディアスで、心に響く素晴らしい曲。これぞペッパーの真骨頂!ピアノとベースのソロは不要だろう

●WALTZ ME BLUES  ドラムとベースが曲のアウトラインをしっかり構成しており、その中でペッパーは踊らされている様だ

●STRAIGHT LIFE  サックスとドラムが絡みながら、高速で駆け抜けるスピード感満点の曲。ピアノも負けずと走るが、曲としては少々単調

●JAZZ ME BLUES  ドラムが完全に主導権を握るとこうなるという典型の曲。キメの部分等はサックスもピアノも弾かされている。ペッパーは遠慮気味

●TIN TIN DEO  効果的にマイナーキーを使って緩急自在に歌うペッパーのサックスとアイデア溢れるフィリーのドラミングが、どことなくエスニックで異国情緒のある曲に仕上げている

●STAR EYES  滑らかなサックスと安定したリズムをキープするドラム、流れる様なピアノ、そして時にスリリングなベースと、それぞれが役目を果たした感じの優等生的な曲●BIRKS WORKS  地味で特徴があまりない曲だが、無駄は無く完成度はまずまず高い(ショーン)


当時の妻ダイアンは、東海岸の一流プレイヤーとの初体面にペッパーが極度に緊張する事を恐れて、当日の朝まで彼に録音の予定を知らせていなかったそうです。

裏面のレスター・ケーニッヒ(コンテンポラリーのオーナー)によるライナーには、ペッパーは2週間演奏から遠ざかっていてサックスのネックのコルクが壊れていて演奏できる状態ではなかったと書かれています。

名演「ユード・ビー・ソー・・・」は演奏をしたことがないばかりか知らない曲で、なんとなく聞いたことがある程度だったというのが驚きますが、このあたりの経緯は自伝「ストレート・ライフ」やジャズ批評114号のインタビュー、フレッシュサウンド盤アート・オブ・ペッパーの原文リーフレットなどに詳しく記載されています。いずれもメチャメチャ面白い読み物なので一読をおすすめします。曲単位ではイマジネションのソロを彼はベストにあげています。

当時全米一のリズムセクションとの初対面セッションで、しかもそんなコンディションでいきなりこんな名盤を録音するとは尋常ではありませんね。やはりこの時のペッパーは神がかっていたようです。



The Art of Pepper/アート・オブ・ペッパー

1957年4月1日、2日  omega tape→Aladdin

↓一番のおすすめフレッシュサウンド盤

フレッシュサウンド盤はリーフレットに価値アリ

おすすめ度

 hand    ★★★★★

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★☆

Art Pepper(as) Carl Perkins(p)  Ben Tucker(b) Chuck Flores(ds)

発売経緯がややこしいが、現状の形では間違いのない決定的な名盤

おすすめの第3位は人によって意見が分かれると思う。いい曲のペッパーは本当にいいので、隠れ名盤の、いわゆるオメガ・セッションを推したい。当初、オメガのオープンリール・テープ2巻で発売され、レコード化したときに音が悪く、これも減点要素で、今、デジタル時代になり、かなり音が良くなりCDになって、1枚になった。媒体による音質の問題は多少はあるが、ペッパーの素晴らしさから、ほとんど気にならない。リズム隊も、安定したプレイを聞かせる。特に⑤身も心ものようなバラードに見せる歌心は絶品で、④サーフライドや③ウェッブシティのような高速曲のソロはスケール練習のようなアドリブになりやすいが、ペッパーの場合は歌心溢れる内容になっている。⑫サマータイムは、「モダン・アート」の未発テイクより、こちらがいい。フレッシュサウンド盤に収録の⑬ブルース・ロックと⑭ロック・ブルースは、近年まで未発だったが、ジューク・ボックス用の踊れる音楽として録音したのかと思われるリフ曲で、無くてもよかった。(hand)

この2曲はフレッシュサウンド盤にのみ収録されている。

オリジナル発売はオープンリール、でテイチクから初めて日本盤が出た時の第2集が世界初LP化とされていた。 この時点でボーナス・トラックのサマータイムはまだ入っておらず、テイチク盤しか持っていない私は悔し涙にくれたのであった。ブルーノートのLTシリーズでも出たことがあり、またトリオ盤アートイズアートは音が良いと言われているので買おうかどうか迷ってます。継続的に要研究の音源です。(しげどん)

●SUMMERTIME  カールパーキンスとペッパーの最高のコラボレーション!常に余韻を感じさせるペッパーの柔らかなプレイとパーキンスのハードな鍵盤タッチが、表裏一体となった名演

●TOO CLOSE FOR COMFORT  リズミカルなスタンダードナンバーを気持ち良く流れるように吹きまくるペッパーの様子が目に浮かぶ。今日は比較的体調が良いのだろう

●WEBB CITY  メンバー全員が一斉に迫力のあるイントロをシンクロさせて始まるパドパウエルの曲。若干録音状態が悪いが、その場の勢いとチームワークが感じられる

●HOLIDAY FLIGHT  骨太のサックスのソロでスタート。キーは低いが、ペッパーの曲にしては珍しく明るいところがあり、気持ちの良い演奏

●BEGIN THE BEGUINE  テンポ、ノリも良いのだが、やや単調に聴こえてしまうのは気のせいか?

●SURFRIDE  ペッパーの演奏は若々しい感じに溢れ、ドラムとベースのスピード感に煽られて、「波に乗って」いる!

●BODY AND SOUL  ペッパーの最初のフレーズはまるで人の声のように聴こえて、ドキっとする。その耳で聞くと本当の女性のため息にも聴こえて来る●FASCINATIN' RHYTHM  小気味良いリズムに乗ったペッパーとパーキンスの掛け合いは息ぴったりで素晴らしく、完成されている(ショーン)


このアルバムはもともとオープンテープ二巻で発売されたもの。詳細は上記フレッシュサウンド盤の英文リーフレットに詳しく、従来不明瞭だった録音日も、1957年4月1日,2日が確実なものだと思われます。当HPの「ペッパーおすすめ盤BEST5」ページにまとめましたので、参照ください。

参考:オメガセッションの曲目  (CDはバージョンによって入ってたり入ってなかったりするので、購入の際の参考に・・・)

 1.Holiday Flight   2.Too Close to Comfort   3.Webb City  4.Surf ride  5.Body and  Soul  6.Begin The Beguin

7.Long Ago and Far Away  8.I Can′t Believe That You've in Love With Me  9.Fascinate  Rhythm  10.Without A Song  11.The Breeze And I  (以上がオリジナル音源 アナログ盤だとLP二枚)

12.Summertime 13.Webb City(alt) 14.Begun The Beguin (alt) 15.Fascinate  Rhythm(alt) 16.Blues Rock  17.Rock Blues (以上が未発表だった音源、トリオ(Nadja)盤は1~15まで収録。CD化の際にModern Artのボーナストラックなどでも発売されているが、サマータイムはこのオメガの未発表テイクとは別にモダン・アートのセッションでも未発表の音源がある。16~17はフレッシュサウンド盤CDに収録)